建築意匠設計ってどんな仕事だと思っていますか?外部から見るとデザイン事務所(アトリエ系)に見えますが、実際には建築設計の総監督という位置づけなんです。
これから意匠設計を目指している方や、現在設計の仕事をしているけど意匠設計に憧れている方に、設計事務所の内情を知ってもらうためにこのページを作成します。
意匠設計事務所の仕事内容
建物の設計をしたいとの思いで勉強し、いざ就職するときには意匠設計専門の事務所の求人などは、目にすることが少ないと思います。それもそのはず、意匠設計のみを業務としている企業は経験者を求めます。
事務所によって業務の範囲は変わりますが、わたしが所属していた事務所は、マンション設計と公共施設の設計業務及び、コンペやプロポーザルでの設計を行っていましたが、ここではマンション設計の流れを解説します。
実務の業務範囲
大小さまざまな設計事務所がありますが、大手になればなる程に細分化がされていて、企画段階から竣工まで携わりたいのであれば、小規模な組織設計事務所でキャリアを積むのが良いと思います。意匠設計の業務内容の大まかな流れは下記のように進んでいきます。
- 土地に対して仮の企画入れ
- 企画が通れば基本設計
- 基本設計と同時に区役所(特定行政庁)と打ち合わせ
- 事業主(デベロッパーや公的機関)との契約
- 確認申請書作成及び構造設計事務所と設備設計事務所に発注
- 事業主より見積もり作成のためゼネコンとの打ち合わせ
- ゼネコンより上がってきた見積書を不備がないかチェックする
- ゼネコンと事業主が契約したら着工する
- 着工後は設計監理のため週に1回程度現場で定例会議を開きゼネコンとすり合わせを行う
- 建築物が竣工したら役所検査を経て、建築物に不備がないか3社による検査が行われる
- 検査後に事業主へ引き渡し
大まかな流れとしてはこのようになりますが、大手設計事務所などは流れの1部分にしか携われないばかりか、大概の方は基本設計や設計図書のチェック、設計監理の小間使い程度の業務しかできません。
もしもキャリアを積みたいのであれば、断然大手よりも小規模な意匠設計専門の建築設計事務所をすすめます。
流れに関しては、わたしが努めていた設計事務所での流れであり、すべての建築事務所がこのような形態を取っている訳ではありませんが、大筋では間違っていません。
それぞれの業務内容を簡単に説明していきますが、基本的に意匠設計事務所の立場は事業主の代理人というスタンスだけは崩さないように行動します。
土地に対して仮の企画入れ
企画を入れる際には、事業主の意向を聞いて行ったり、事務所によっては土地探しから企画入れまでを行い、土地所有者に対してプレゼンをする事務所もあります。
事業主(デベロッパー)からの敷地情報(現地住所や面積が分かる程度の資料)を渡され、ファミリー層向けなのか単身者むけなのか、どのようなコンセプトの建物にしたいのかをヒアリングします。
その後、現地調査(敷地周辺の状況)と役所調査(条例や現地調査後に考えられる法的規制の打ち合わせ)を経て、企画段階の図面作成に入ります。
企画図では、以下の要件を満たして作成します。
- 敷地容積率をどの程度消化できるか?(通常はほぼ100%を目指す)
- 事業主が希望する形態の建築物で納まるか
- 建築基準法を満たしているか
(ここでは形態制限に係る法を遵守します。日影規制・斜線規制・高さ制限など) - 都条例や区の条例に違反していないか
(ここでは駐車場規制やゴミ置き場の規制などの基準法以外の部分を考えます) - 地下の埋設物との干渉チェック(地下鉄など)
- 31mを超える建築物の場合には公共電波障害の有無を確認
外部リンク:伝搬障害防止区域図を縦覧(総務省) - その他関連法規のチェック
(消防法・河川法・都市計画法など)
企画図面や役所要件を踏まえた上で作成するので、事業主の企画変更が無い限りはそのまま基本設計に移れるように、法を遵守するので、非常に重要な業務となります。
ある程度の経験を経ないと出来ない業務で、幅広い設計の知識を必要とします。
企画が通れば基本設計
基本設計の段階に入ると事業主との契約内定が決まります。
ここでは設計業務に携わる職員でチームを組み、確認申請に提出するレベルで各階の設計図を起こします。
形態制限以外の基準法や関連法規、条例など思いつく限りの検証をしながら設計図書を完成させるのですが、この段階でミスがあると後に響くため慎重に再調査をしながらチームリーダーが陣頭指揮をとります。
基本設計と同時に区役所(特定行政庁)と打ち合わせ
作成した基本図を元に特性行政庁との協議をしますが、この時点で建築基準法に遵守しているか?その他条例などに違反はないか?消防法や電波法、河川法など関連法規のチェックをしながら、確認申請に向けて各行政庁と協議を進めていきます。
事業主(デベロッパーや公的機関)との契約
確認申請書作成前に事業主との設計契約を結ぶために、設計料及び設計監理料を算定します。
事業主との契約が成立したらいよいよ確認申請書の作成です。
確認申請書作成及び構造設計事務所と設備設計事務所に発注
確認申請と設計図書作成のための発注を行いますが、意匠設計事務所では基本図及び基準法で求められている図書の作成を行います。
設計図書の発注先
- 構造設計事務所
- 設備設計事務所
- 詳細設計図作成専門の事務所(CADオペレータ)
ここで挙げた以外にも都市計画法などに係る場合には、コンサル系(開発関連の設計事務所)へ依頼して図面を作成します。
事業主より見積もり作成のためゼネコンとの打ち合わせ
出来上がった図面を元にゼネコンとの協議を行い、見積もりする上で設計図のわからない部分や不備を確認していきます。
大体は3社見積もりを行うので、ゼネコン3社共に不平等が無いようそれぞれと情報共有するのも設計者の仕事です。
ゼネコンより上がってきた見積書を不備がないかチェックする
ゼネコンが作成した見積書(3社分の見積もり)をそれぞれ付け合せ、見積もりがかけ離れていないか?見積もり落ちはないか?など、数百ページ以上にわたる見積書に目を通し、不備があれば指摘をし再見積もりをしてもらいます。
ゼネコンと事業主が契約したら着工する
ゼネコンが決定し事業主との契約が完了したら、いよいよ着工へ向けて動き出しますが、マンションであれば近隣住民説明会などを行い、すり合わせを行っていきます。
着工後は設計監理のため週に1回程度現場で定例会議を開きゼネコンとすり合わせを行う
現場での会議では、使う材料の決定や設計図書通りに進まない部分の改定及び法規チェック、ゼネコンが作成した施工図のチェック(意匠図・構造図・設備図(給排水衛生図・電気図)のチェック)を行い、不備があればゼネコンに指示を出します。
重要なのは、設計監理の立場として事業主サイドに立ち、あくまでも事業主の代理人としてゼネコンと協議を進めていくのですが、仕上げ材料の決定時や、設計変更が行われる際には事業主への報告と、最終決定をしてもらいます。
専門家として会議にのぞみますが、大手設計事務所などではチームリーダーではなく、チーム員が行きゼネコンや事業主との橋渡しをしたりしますが、意思決定の遅れから現場作業が遅れることもしばしばあります。
意思決定に関して言えば、小規模な意匠設計事務所の方が圧倒的に早いと思いますし、重要事項でない限りはわたしも即時決定していました。
わたしのいた事務所では、定例会議は午前中に行い法に違反しそうな恐れのある設計変更などは、当日中に役所との協議を済ませ回答するよう指導していました。
建築物が竣工したら役所検査を経て、建築物に不備がないか3社による検査が行われる
役所の中間検査、竣工検査が終わったら、いよいよゼネコン・設計事務所・事業主の検査がありますが、主にゼネコンと事業主の検査は仕上げに関する部分が多く、クロスの剥がれやタイルの不備などに終止します。
設計事務所の検査は、仕上げの検査と建築関連法に準拠しているかも検査するので、チームリーダー及びチームに参加していた教育中の所員も連れ立っての検査をしています。
検査後に事業主へ引き渡し
すべての検査が終わり、建物竣工式が行われれば設計者の任が解かれますが、設計した者として瑕疵担保責任もありますから、事業主やゼネコンから質疑があれば、アフターサービスとしての対応が待っています。
設計事務所の仕事内容まとめ
いかがでしたか?
意匠設計事務所の仕事は、建築設計に関することだけ知っていれば良いわけではありません。最新の設備や建築構造の動向、インテリアの知識やエクステリア(外構)の知識も持っていないと、業務になりません。
わたしが思う意匠設計の仕事と言うのは、コンサルタントに近いと思います。設計業務に携わる物の総監督をし、事業主やゼネコンへのコンサル的側面を多くもっています。
ひとつの建物を完成に導くのが設計者の努めであり、そこには様々な要因が邪魔をしてきます。
とにかくカッコイイ建物を設計したい、自分の思い通りに設計したいと思うなら、アトリエ系のデザイン設計事務所へ務めるか、フリーランスとして設計事務所を開業するしかありません。
忠告させていただくと、アトリエ系の事務所へ入っても小間使いになるのが落ちだと思うし、実際に現場で出会うアトリエ系の方はそうでした。
設計の醍醐味を味わいたいなら、実務設計をしている意匠設計事務所が1番だと思います。
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